歯科医院でのアナフィラキシー

アナフィラキシーの病態

日本アレルギー学会によるとアナフィラキシー「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」と定義されており、重症例では気道閉塞や心血管虚脱から死に至ることもある疾患です。

歯科で抗原(アレルゲン)となる有名なもの
『局所麻酔薬』『抗生剤』『鎮痛薬』『ラテックス』
その他のアナフィラキシー報告があるもの
『ホルムアルデヒド含有根管治療剤』『水酸化カルシウム系根充剤』『止血用ゼラチン貼付剤』

 

歯科治療時のアナフィラキシーは非常に稀で、例えばリドカインによるアナフィラキシーの発症頻度は0.00007%(約100万人から150万人に1人)と推測されています。しかし日常的に局所麻酔を行う歯科医師にとって、日ごろからアナフィラキシーに対応できるよう準備することが重要です。

 

アナフィラキシーの免疫学的機序として、まず特定の抗原(アレルゲン)に対しIgE抗体が産生され(感作)、その IgE抗体が好塩基球や肥満細胞の表面に受容体を介して結合します。IgE抗体に抗原が結合した際に好塩基球や肥満細胞が脱顆粒を起こし、種々のケミカルメディエーター(化学伝達物質)が放出されます。放出されたヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジン、トロンボキサン、ブラジキニンなどのケミカルメディエーターは血管拡張、毛細血管透過性の亢進(血管内皮細胞間に隙間ができ、分子量の大きな物質も血管壁を通過できる状態)、気管支収縮を引き起こします。

 アナフィラキシーの症状

血管が拡張すると血管内は相対的に循環血液量が減少した状態となりますし、また毛細血管透過性亢進により水分が血管内から血管外へシフトし、血管内容量がさらに減少した結果、重度の血圧低下をきたします。血圧低下時に認められる頻脈は低血圧に対する代償反応(圧受容体反射)と考えられています(一部のアナフィラキシーでは最初から徐脈を伴うことが報告されています)。

 

血管透過性亢進により皮下に漏出した血管内の水分は蕁麻疹や浮腫として認められます。またロイコトリエンは気管支を収縮させる作用があり、気管支痙攣(下気道閉塞)を発症し、喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼーと聞こえる呼吸音)や呼吸困難の症状が出現します。また血管透過性亢進による浮腫が喉頭や舌に起これば、上気道閉塞となりアナフィラキシーは呼吸器系にも大きな影響を与えます。

 

IgEが関与しない免疫学的機序、または肥満細胞を直接活性化することによってアナフィラキシーが発生することもあります。以前はIgEが関与しない病態を「アナフィラキシー様反応」と呼んでいましたが、近年ではIgE関与の有無に関わらずアナフィラキシーという用語を用いることが主流になってきています。

 

アナフィラキシーの診断のポイント

抗原への暴露後である

局所麻酔や鎮静薬投与後 など

粘膜に浮腫、蕁麻疹、発赤が認められる

これらは血管透過性亢進の結果起こる症状である

呼吸困難、動脈血酸素飽和度の低下、血圧低下、消化器症状(腹痛や嘔吐)が認められる

皮膚・粘膜症状はアナフィラキシー患者の8090%、気道症状は最大70%、消化器症状は最大45%、心血管系症状は最大45%に認められると報告されています(J Allergy Clin Immunol. 2015;125:S161-181.)。

 

アナフィラキシーの対応法

重篤な偶発症ですので、必ず救急通報を行ってください。

命の危険がある重篤な偶発症ですので、必ず救急通報を行うこと

②アドレナリン標準量 0.3 mg(成人)を大腿前外側部に筋肉内注射する

ペン型アドレナリン自己注射器(エピペン®)を準備しておけば、アドレナリンの投与が簡便かつ迅速に行えます(下図参照、緊急時は衣服の上から投与可能)。

 

 

③患者を仰臥位にして、30 cm程度下肢を挙上する

下肢を挙上することで心臓に戻ってくる血液量が増加し、その結果心臓から拍出される血液量が増加する

④フェイスマスクを用いて高流量(6~8L/分)の酸素投与を行う

酸素投与を行うことで気管支収縮や上気道閉塞による低酸素決勝を改善する

⑤静脈路を確保し、生理食塩水を急速投与(最初の5~10分間に成人で5~10 mL/kg)する

慣れている歯科医師であれば実施してください。

 ⑥心停止時は心肺蘇生を行う

 絶え間ない胸骨圧迫と人工呼吸を行う

⑦頻回かつ定期的にバイタルサインを評価する

 歯科医院にも生体モニターを準備しておく必要があります

おすすめの小型バイタルサイン測定機器

 

アナフィラキシーはいつ起こってもおかしくない偶発症です。適切に対応するため歯科医院にもアドレナリンと酸素ボンベ、またバイタルサインを測定できる機器(血圧計、パルスオキシメータなど)を準備しておくとともに、その使用方法についても熟知する必要があります。

 

今回はアナフィラキシーについて解説しました。

AneStem YouTube でも動画で詳しく解説をしていますので、ぜひそちらもご覧ください。